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ごあいさつ
圧力技術の産業利用と普及を目指して
技術の革新と普及には、この技術を受け入れる社会的素地が重要です。18世紀の後半からイギリスでは、世界に先駆けた産業革命によって蒸気機関やガソリンエンジンが開発されました。このエンジンは乗り合いバスにまで搭載されましたが、1865年に馬車運送業者の反対で、自動車への普及が阻止されました。車の前を、赤旗を持った人が走ることを義務付けたのです。そして、この法律(Locomotive Act)が廃止される1896年までの30年の間に、ドイツ、フランス、アメリカでは、ガソリンエンジンの4輪自動車が次々と開発され、イギリスは自動車の開発に遅れてしまったのです。アメリカでは自動車のエンジンを飛行機に利用し、1903年にライト兄弟が有人飛行を行っています。「空気より重い機械が空を飛んだ」のです。何よりも社会が技術を受け入れてこそ利用され、普及するのです。
圧力の利用によって、今後、更に豊かな社会が構築できることは明白です。具体的な提案は無数にあり、あらゆる分野に亘っています。食品の保存、農産物中の有用成分の増強、味を大切にする調理方法や、咀嚼困難者や嚥下困難者に無添加で提供できる安全な食品なども可能です。医療の分野では、癌の治療、生体臓器の保存・輸送、ウイルスの殺菌、微生物的に安全な輸血剤の提供などにも有益です。ここで扱う圧力は液体の圧縮エネルギーを利用しているため、気体を閉じ込めて家庭で使用しているプロパンガスのボンベに比べても、遥かに安全で利用し易い技術です。世界中に圧力を利用した文化を普及させるには、我々の認識を変化させ、圧力利用が常識となる社会を築くことが重要だと考えています。
私たちはこれまで、多くの学術論文誌(Trends in High Pressure Bioscience and Biotechnology, R.Hayashi, 2002, Progress in Biotechnology 19, 375, Elsevier Science B.V., and Springer Science+Business Media, Dordrecht 2015, 26, 567. など)に圧力の有用性を発表してきました。
そしてこの度、さらに世界に向かって実用化技術を紹介し普及するための会社「High-Pressure Support Co., Ltd.」を設立しました。
現在まで、殆ど圧力の利用は産業化されてきませんでしたので、各社が圧力を利用した製品を社会に供給すれば、利用者は、前述の「空気より重い機械が空を飛んだ」ことと同じ感動を受けることでしょう。
さあ!一緒に圧力利用によるイノベーションを実現しましょう。
April 2015, Tokyo
High-Pressure Support 株式会社
代表取締役会長
工学博士山﨑 彬
圧力で創造する未来
高圧処理(High-Pressure Treatment)は、数十から数百MPaの静水圧を食品加工に利用する技術です。マリアナ海溝の最深部は約1万mであり、ここでは100MPa(1000気圧)の水圧がかかります。当社では、この4倍にあたる400MPaまでの水圧で食品を加工し、無菌化食品や機能性食品を作り出しています。
今から30年前、日本で食品への圧力利用が提唱された当時、多くの企業が非加熱殺菌を目的として高圧利用に取り組みましたが、実用化が不可能なほど高い圧力条件でも十分な殺菌効果が得られず、研究・開発を断念しました。しかし、越後製菓株式会社は、米加工品を美味しくするために、圧力利用の開発を続けてきました。多くの企業が圧力利用を諦める中、愚直に研究を重ね、2000年には世界で最初の高圧米飯プラントを立ち上げ、高圧技術を利用した食品の量産化に成功しました。現在、国内3工場で高圧米飯工場が稼働し、海外展開も実現しています。
熱と圧力は、それぞれ独立した物質の状態変換因子であり、加熱・冷却に伴って、水が気体、液体、固体へと相変化するように、圧力でも状態を変化させることが可能です。このことからも、圧力はモノづくりの根幹の原理であり、想像を超えるような変化をもたらしてくれます。一方、100MPaで生じる圧力エネルギーは、僅か約0.02kcal/molであり、化学反応を引き起るほどのエネルギーはなく、劇的な変化が生じないこともまた、圧力の魅力でもあります。
当社は、越後製菓株式会社が長年に亘り取り組んできた圧力研究と産業化の経験を活かし、これから圧力利用に取り組む企業や研究機関の支援を行いながら、高圧処理の利用と普及を進めることを目的に設立されました。食品、機械、農業、医療などあらゆる分野で、圧力によるイノベーションの創出に取り組んで参りたいと思います。
April 2019, Tokyo
High-Pressure Support 株式会社
代表取締役社長
小林 篤